2017年にアメリカで公開された「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」が今年、5月18日からいよいよ日本でも劇場公開が開始されました。
地域によって公開時期は異なりますので、公式サイトで上映情報はご確認ください。
世界で最も有名な図書館であり、ニューヨークの観光スポットにもなっている「ニューヨーク公共図書館」。
この図書館の表舞台と裏舞台に迫ったドキュメンタリー映画です。
映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」の監督は、1967年から40本以上ドキュメンタリー映画を撮り続けている巨匠フレデリック・ワイズマン監督。
1年〜1年半に1本は映画を世に送り続けている。
フレデリック・ワイズマン監督の代表的な受賞歴
- 2003年 ダン・デイヴィッド賞
- 2012年 第38回ロサンゼルス映画批評家協会賞 功労賞
- 2014年 第71回ヴェネツィア国際映画祭で栄誉金獅子賞
- 2015年 ニューヨーク映画批評家協会賞 ノンフィクション映画賞
- 2016年 第89回アカデミー賞で名誉賞
- 2017年 ヴェネツィア国際映画祭 FIPRESCI賞『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』
1930年1月1日生まれのフレデリック・ワイズマン監督は今年で89歳ですが、その年齢とは関係なく重厚なドキュメンタリー映画を作りつづけています。
映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」では図書館の『機能』の多面性と、図書館のスタッフたちの役割を『舞台裏』から照らし出してくれます。
この映画を観る観客は「ニューヨーカー」として図書館の利用者の視点で紹介を受けると同時に、図書館運営のスタッフの立場で映画を観ることにもなります。
観終わった後「ニューヨークに住みたい」「ニューヨーク公共図書館のサービスを受けたい」「日本にもこのような公共図書館(市立、県立ではない)が欲しい」と感じることでしょう。
それでは映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」を紹介します。
映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」予告編映像
映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」基本情報
原題 | Ex Libris – The New York Public Library |
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監督・製作・編集・音響 | フレデリック・ワイズマン |
撮影 | ジョン・デイヴィー |
撮影助手 | ジェームス・ビショップ |
編集助手 | ナタリー・ヴィニェー |
音響編集助手 | クリスティーナ・ハント |
製作総指揮 | カレン・コニーチェク |
サウンドミックス | エマニュエル・クロゼ |
デジタルカラータイマー | ギレス・グラニエ |
製作 | ジポラフィルム |
製作年 | 2017年 |
上映時間 | 3時間25分 |
コピーライト | (c) 2017 EX LIBRIS Films LLC – All Rights Reserved |
映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」感想
「図書館」というモノは国や時代の流れの中で生まれ、そして、遷り変化していくモノだと改めて思い知らされた作品でした。
映画の舞台となる「ニューヨーク公共図書館」はニューヨーク市と民間が資金を出し合って運営している図書館である。ゆえに「ニューヨーク市立図書館」ではなく「ニューヨーク公共図書館」である。
「ニューヨーク公共図書館」の誕生は1911年であり、100年以上の歴史と文化がそこにはあります。
映画の中で「ニューヨーク公共図書館」は「書庫としての機能だけではなく、ニューヨーク市民の生活のインフラであり、教育の場所である」ことを紹介しています。
ドキュメンタリー映画であり、カメラは常に「図書館の利用者」または「運営スタッフ」を追い続けます。
予告編の映像にあるように、本を借りに来る人、問い合わせの電話対応をする司書、無料のカルチャースクール、図書館の予算決めをする会議の様子など。
「ニューヨーク公共図書館」の表も裏もそこには表現されていました。
「ニューヨーク公共図書館」の運営の中で最も意外だったのが、努力を惜しまない人たちへの「無料の教育サービス」「転職・就職など自立への無料の後押し」が手厚いということでした。
日本で言えば職安とカルチャースクールが図書館の中に組み込まれているようなイメージです。
ニューヨークに在住か、勤務していればどのサービスも平等に無料(一部有料かもしれないが)で受けることができます。
「これらの運営は図書館のサービスの範囲を超えている」のではないか?と思うかもしれません。
しかし、このことは「ニューヨーク公共図書館」誕生の歴史に遡ると理解できます。
カーネギー図書館とニューヨーク公共図書館
その昔、鋼鉄王と呼ばれたアンドリュー・カーネギーの寄付基金で建てられた図書館が世界中にあります。
ニューヨーク・カーネギー財団の支援により、2,500を超えるカーネギー図書館が1883年から1929年の間に建てられており、アメリカにも1600以上の図書館が建てられました。
これらの図書館を総称して「カーネギー図書館」と呼んでいますが、「ニューヨーク公共図書館」もその図書館の1つです。
160以上の言語が飛び交う移民のるつぼであるアメリカにおいて移民問題、人種問題は課題の1つでありました。
カーネギー図書館の理念の1つは「平等な教育の機会、学ぶ機会を与える」というモノ。
今の「ニューヨーク公共図書館」にもその理念は受け継がれているということが映画を観ていてもわかります。
アンドリュー・カーネギー( 1835年11月25日〜死没 1919年8月11日(83歳没))もスコットランド出身のアメリカ移民でした。
アメリカに移住後、1870年代にはカーネギー鉄鋼会社を設立し、1890年代には当時世界で最も高収益な会社となりました。
引退後、カーネギーは人生を慈善活動に捧げ、図書館建設、世界平和、教育、科学研究などに多額の寄付をしています。
カーネギー図書館もその慈善事業の一貫であり、最も多額な投資がされた慈善事業の1つといわれています。
まとめ:目先のことも大事だが、未来を据えて
「書籍が電子化され、活字離れが進んでいる。紙媒体が減っている」こう書くと図書館も紙媒体も時代遅れであることを誰も疑わない思います。
しかし図書館が時代遅れだという考え方は、「図書館」の機能を「書庫」としての面だけで見た時だけの話です。
少なくとも「ニューヨーク公共図書館」には「書庫」だけでなく、市民が生きていく上で必要な「知恵・知識」「教育サービス」「就労情報」があり、「世界の知の殿堂」としての価値がそこにはありました。
「ニューヨーク公共図書館」は21世紀の中で最も価値が高く、未来を見据えている図書館だということがこの映画を観ることでわかります。
ベストセラーの本を増やしたり、電子書籍に予算を投下して、目先の利便性と利用者増を目指すのか、必要な本を探している人が10年後にニッチな本を手に入れることができるようにバランスを考えて予算を利用するのか?
映画ではあくまで俯瞰した視点で、「ニューヨーク公共図書館」をできるだけ平等に見せようとしている作品です。
誰かの視点で、例えば、館長の視点などで描かれた作品ではなく、たくさんな場面と場面を繋いだ作品です。
そこに映るのは「ニューヨーク公共図書館」の日常です。
「利用者」「司書」「スタッフ」「館長」それぞれがそれぞれに動き、語り続けます。
「解説」などのナレーションは一切はいりません。
目のまで起きていることをただただ、観せられます。
黙って観ている映画なので、興味がない人は眠くなる映画かもしれません。
「図書館は民主主義の柱だ」と作中で表現がされています。
本を貸し出すだけでなく、市民の生活を根底から支えている様子を観せられた私としては「図書館は民主主義の柱だ」という表現には頷かずにはいられません。
生活の基盤は「知識」であり、「教育」なのです。
それも自ら学びにいく「知識」です。
学べる機会を「均等」に与えられている図書館をまさに民主主義の柱であると思えるし、電子化が進む近代においても未来に残り続ける図書館であると思います。
ニューヨーク公共図書館はアンドリュー・カーネギーの理念を今も引き継ぎつつ、生き続けている人のような図書館だと思いました。
スタッフたちが必死に図書館の未来を案じて活動をし続け、市民たちに愛されて頼りにされている「ニューヨーク公共図書館」は今後も存続し続けていくことでしょう。
私がアメリカ人だったらニューヨークに住みたいと思えるぐらい魅力的な図書館でした。
以上、『ドキュメンタリー映画「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」感想・レビュー(世界最高の知の殿堂!ニューヨーク公共図書館は生きている)』でした。
最後までお読みいただきありがとうございました。
映画評論家宮川(@miyakawa2449)でした。
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