映画『ウインド・リバー』は2017年公開のアメリカ合衆国の映画です(日本公開は2018年)。
監督はテイラー・シェリダンで、監督と脚本を同時に務めています。
テイラー・シェリダンの脚本の腕は『ボーダーライン』、『ボーダーライン: ソルジャーズ・デイ』を見ればわかる通り、サスペンスや暴力描写の脚本が優れています。
今回紹介する映画『ウインド・リバー』のサスペンス、暴力描写も期待通りの仕上がりです。
この映画『ウインド・リバー』の冒頭で『INSPIRED BY ACTUAL EVENTS(字幕:実話に基づく)』という言葉が使われます。
『INSPIRED BY ACTUAL EVENTS』を直訳すると、「実際の出来事(イベント)に着想を得た」という意味です。
監督であり、脚本家であるテイラー・シェリダンが何に着想を得て、映画『ウインド・リバー』を製作したのか、気になりますよね。
端的に結論を申し上げるならアメリカ合衆国においてネイティブアメリカン女性の失踪者事件は統計調査すら存在せず、未解決事件のまま存在しているという現状に着想を得て、テイラー・シェリダンはこの映画を撮影したそうでうす。
これは私の解釈ですが、WikiPedia に次のような事件が載っているところを考えれば、当時の事件が監督の映画製作の着想に大きな影響を与えたことと思います。
引用元:WikiPedia よりウインド・リバー・インディアン居留地『居留地における犯罪とメディアの描写』より
2009年、3人の若いネイティブ・アメリカンの少女ら(13、14、15歳)が居留地で殺害された。彼女らは、低所得の部族住宅コミュニティであるビーバー・クリークの小さな家の寝室で発見された。 ヘロイン中毒者の治療薬として使用される鎮痛剤であるメタドンを過剰摂取していた。 しかし、彼女らがどのように鎮痛剤を受け取ったかは誰も知らないので、検死官は彼らの死を殺人と判断した。居留地の警察は非常に貧弱なため、FBIが殺人の主任捜査官となった。 ロードアイランドほどの大きさのエリアを、たった6人の居留地の警察官がパトロールしているような状況である。やがて、10代の少年2名が少女らの死に関連したとして逮捕された。
なお、映画の一番最後に次のような字幕が掲載されています。
While missing person statistics are compiled for every other demographic, none exist for Native American women.
行方不明者の統計は他のすべての人口統計についてまとめられていますが、ネイティブアメリカンの女性についてはありません。No one knows how many are missing.
どれだけ欠けているか失踪者の数は誰にもわかりません。
映画『ウインド・リバー』を観る前に知っておきたい2つのポイント
居留地とは
映画『ウインド・リバー』では、実在するウインド・リバー・インディアン居留地(保留地)が舞台となります。
居留地とは、アメリカ合衆国内務省BIA(インディアン管理局)の管理下にある、インディアン(アメリカ州の先住民族)部族の領有する土地のことを示します。
居留地は自治権が国家並みに強く、FBI(連邦捜査局)の捜査も入りにくい土地です。
なお、ウインド・リバー居留地は9,000km2の面積を優に超えており、私の地元石川県の2倍の広さを超えています(居留地の中では7番目の広さ)。
なぜ、未解決事件が多いのか?
深い雪に閉ざされた山岳地帯で、ネイティブアメリカンの少女の死体が発見されます。
映画の中で検死官が死因は極度の冷気を吸い込み肺胞が破裂した『肺出血』と結論づけます。
死因だけでは他殺に結びつけることができない。
他殺に結びつけることができなければ、FBI捜査班を呼び寄せることができず、インディアン管理局(BIA)のみの捜査になります。
初動捜査に駆けつけた新人FBIジェーン捜査官(エリザベス・オルセン)は死因を他殺に結び付けて、適任のFBI捜査班を呼びたいところ。
しかし、BIAの検死官は死体の状況では他殺を証明できないと、他殺説を跳ね除けます。
FBIジェーン捜査官は、他殺を証明できずBIAのみの捜査になれば「こんな広い土地をたった6人でカバーしているのよ。事件を解決できないわ。」と警告を出します。
結果、映画はたった6人のBIAとFBIジェーン捜査官で捜査を開始することになります。
そのチームの中に被害者少女の第一発見者の白人ハンター、コリー・ランバート(ジェレミー・レナー)が加わることになります。
FBIチームを呼べないジェーン捜査官。
娘の親友をレイプ犯罪の被害者として無残な姿で発見したハンターのコリー。
2人はそれぞれの無情さと怒りを心に雪に覆われた広大な山岳地帯を捜査していきます。
たった数名のBIAだけで広大な土地を捜査すれば未解決事件が多発するのも肯けます。
なお、映画『ウインド・リバー』では驚愕の事実を突き止めます。
映画『ウインド・リバー』予告編
YouTube:KADOKAWA映画公式チャンネルより
映画『ウインド・リバー』あらすじ
なぜ、この土地(ウインド・リバー)では少女ばかりが殺されるのかーー
アメリカ中西部・ワイオミング州のネイティブアメリカンの保留地ウインド・リバー。
その深い雪に閉ざされた山岳地帯で、ネイティブアメリカンの少女の死体が見つかった。
第一発見者となった野生生物局の白人ハンター、コリー・ランバート(ジェレミー・レナー)は、血を吐いた状態で凍りついたその少女が、自らの娘エミリーの親友であるナタリー(ケルシー・アスビル)だと知って胸を締めつけられる。コリーは、部族警察長ベン(グラハム・グリーン)とともにFBIの到着を待つが、視界不良の猛吹雪に見舞われ、予定より大幅に遅れてやってきたのは新米の女性捜査官ジェーン・バナー(エリザベス・オルセン)ひとりだけだった。
死体発見現場に案内されたジェーンは、あまりにも不可解な状況に驚く。
現場から5キロ圏内には民家がひとつもなく、ナタリーはなぜか薄着で裸足だった。
前夜の気温は約マイナス30度。肺が凍って破裂するほどの極限の冷気を吸い込みながら、なぜナタリーは雪原を走って息絶えたのかーー監察医の検死結果により、生前のナタリーが何者かから暴行を受けていたことが判明する。
彼女が犯人からの逃走中に死亡したことは明白で、殺人事件としての立件は十分可能なケースだ。
しかし直接的な死因はあくまで肺出血であり、法医学的には他殺と認定できない。
そのためルールの壁にぶち当たり、FBIの専門チームを呼ぶことができなくなったジェーンは、経験の乏しい自分一人で捜査を続行することを余儀なくされ、ウインド・リバー特有の地理や事情に精通したコリーに捜査への協力を求める。・・・・以下省略
映画『ウインド・リバー』基本情報
- 監督 テイラー・シェリダン
- 脚本 テイラー・シェリダン
- 製作
- ベイジル・イバニク
- ピーター・バーグ
- マシュー・ジョージ
- ウェイン・L・ロジャース
- エリザベス・A・ベル
- 撮影 ベン・リチャードソン
- 美術 ニール・スピサック
- 衣装 カリ・パーキンス
- 編集 ゲイリー・ローチ
- 音楽
- ニック・ケイブ
- ウォーレン・エリス
- 公開年
- アメリカ合衆国 2017年8月4日
- 日本 2018年7月27日
- 上映時間 107分
- 著作権 Copyright (C) 2016 Wind River Productions, LLC All Rights Reserved.
映画『ウインド・リバー』感想・レビュー
事件解決でも救われない心
事件は解決しても被害者家族の心は救われない。
悲しい映画です。
悲しい映画ですが、ブログの冒頭でも述べたように実話に基づいたアメリカ合衆国の闇の部分を赤裸々に炙り出した作品です。
性被害にあって、失踪事件に巻き込まれ、命を失ったとしてもネイティブアメリカン女性は統計調査にも載らず、未解決事件が多く残されている。
映画ではFBIに協力的ではないBIAとして描かれるが、それは感情的問題、制度上の制約、歴史的背景のいずれかが関係しているのでしょう。
感情、制度、歴史的な原因が何対何の割合でそうなっているのかは分かりませんが。
2人の主役
主演はジェレミー・レナーとエリザベス・オルセンが演じていました。
ジェレミー・レナーが演じるのは野生生物局の白人ハンター、コリー・ランバートですが、映像に映る時間が少ない。
しかし、彼の存在がなくてはこの映画は成り立たない。
被害者の第一発見者であり、自分の娘は被害者の親友だったという立ち位置。
このコリー・ランバートのポジションはコリーの行動原理を表す上で非常に重要な設定でした。
そして、エリザベス・オルセンが演じた、FBIの新人捜査官ジェーン・バナー。
たまたま現場の近くにいたために初動捜査に呼ばれた頼りない若い捜査官。
彼女は土地勘もなく、ウインド・リバー居留地ではほぼほぼ権限を持たない。
そんな状況でFBIジェーン捜査官はコリーに捜査協力を求めます。
では、コリーとジェーン捜査官が2人で共に行動するのか?と、いうとそういうシーンは意外と少ない。
ただ、ジェーン捜査官が向かう先には必ずコリーが現れます。
つかず離れずの2人だが、頭の中の目指すところは『事件解決』というところでつながっている。
結果、手段は違っても共に事件解決に貢献し合うことができたのでしょう。
2人の芝居は最高でしたね。
コリーを演じたジェレミー・レナーは内に秘めた怒りと悲しみの演技が映像から伝わってきました。
ジェーン捜査官を演じたエリザベス・オルセンは、正義感と義務感を心の支えに味方の少ない居留地で孤軍奮闘する姿がとても応援したくなりましたし、可愛かったです。
FBIジェーン捜査官がルールに縛られなが行動する。
その姿がコリーにとっては頼りなく見えていたでしょう。
そして、ルールに縛られない行動をするコリーの姿は、ジェーン捜査官にとっては目障りな存在に写っていたかもしれません。
しかし、あることがきっかけでコリーが事件に関わっている本心をジェーン捜査官が知ったエピソードがありました。
そのエピソードで2人の間に強い信頼感が結ばれた、あのシーンはグッと来るものがありました。
また、そのときジェーン捜査官が捜査ルールの尺度では測れない、ウインド・リバー居留地の闇を目にしたのだと思います。
そして、コリーもまたその闇に取り憑かれている被害者家族の1人であるということを知り、ジェーン捜査官は自分の不甲斐なさを思い知り、悔し涙を飲み込んでいました。
とても、印象的なシーンでした。
熱い映画
厚い雪で覆われた広大な山岳地帯。
降りしきる雪が全ての音と事件の痕跡を呑み込んでしまうようなウインド・リバー居留地。
多くを語らない原住民たち。
そして、未解決事件が続く、土地が持つ魔力。
とても、静かな印象を持つ映画ですが、ジェーン捜査官とハンターのコリーはとても熱い心を持っていたと思います。
そして、被害者家族も前向きに生きようとする姿から熱い心が伝わってきました。
とても、お勧めする映画です。
映画『ウインド・リバー』キャストで振り返る
野生生物局のハンター コリー・ランバート(ジェレミー・レナー)
野生生物局の白人ハンター、コリー・ランバート(ジェレミー・レナー)。
- Jeremy Renner(ジェレミー・レナー)
- 生年月日 1971年1月7日
- 出身地 アメリカ合衆国 カリフォルニア州
- 主な映画出演作品
- Avengers: Endgame(アベンジャーズ/エンドゲーム ・2019) / クリント・バートン(ホークアイ) 役
- Wind River(ウインド・リバー / 2017) / 主演 コリー・ランバート 役
- Arrival(メッセージ・2016) / イアン・ドネリー 役
- Captain America: Civil War(シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ・2016)/ クリント・バートン(ホークアイ) 役
- Mission: Impossible – Rogue Nation(ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション・2015) / ウィリアム・ブラント 役
FBI ジェーン・バナー捜査官(エリザベス・オルセン)
偶然、死体発見現場に最も近い地域にいたため、初動捜査に駆けつけた新人FBI捜査官ジェーン・バナー。
- Elizabeth Olsen(エリザベス・オルセン)
- 生年月日 1989年2月16日
- 出身地 アメリカ合衆国カリフォルニア州ロサンゼルス
- 主な映画出演作品
- Avengers: Endgame(アベンジャーズ/エンドゲーム ・2019) / ワンダ・マキシモフ(スカーレット・ウィッチ) 役
- Avengers: Infinity War(アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー・2018)/ ワンダ・マキシモフ(スカーレット・ウィッチ) 役
- Wind River(ウインド・リバー / 2017) / 主演 ジェーン・バナー 役
- Captain America: Civil War(シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ・2016)/ ワンダ・マキシモフ(スカーレット・ウィッチ) 役
- Godzilla(GODZILLA ゴジラ・2014) / エル・ブロディ
部族警察長ベン(グラハム・グリーン)
部族警察長ベンは口数は少ないが、ジェーンと常に行動を共にしてくれている。
さりげなく存在感がある。
個人的にはお気に入りの警察官でした。
- Graham Greene(グラハム・グリーン)
- 生年月日 1952年6月22日
- 出身地 カナダ・オンタリオ州
- 主な映画出演作品
- Wind River(ウインド・リバー / 2017) / 部族警察長ベン 役
最後に
全てを語り尽くしているので、最後にまとめることはあまりありません。
ブログの記事の冒頭でも説明しましたが、事件は解決されますが誰も救われない、そんな映画です。
ただ、ミステリー作品としては一級品でしょう。
すごく見応えがありますし、主演2人の活躍がすごくかっこいいです。
アベンジャーズ(MCU)では見せないジェレミー・レナーとエリザベス・オルセンの新しい表情を楽しむのも1つです。
また、心の穴を埋めることはできなくとも、残されたものは生き続けなくてはいけない。
そんな悲しみに勇気を与えてくれる映画でした。
いい作品なので未鑑賞の方は是非、見てみて欲しい作品です。
以上、「映画『ウインド・リバー』感想・レビュー(アメリカ社会の闇を描く、実話に基づく物語)」でした。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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