映画『Joker』
第92回アカデミー賞® 最多11部門ノミネート‼
【作品賞】【監督賞】【主演男優賞(フェニックス)】の主要3部門
【脚色賞】【撮影賞】【編集賞】【録音賞】【メイクアップ&ヘアスタイリング賞】【衣装デザイン賞】【音響編集賞】【作曲賞】
本編に踏み込んだレビューを書いていますので、先入観を持たずに映画『Joker』を鑑賞されたい方は、次のページ「映画『Joker』を楽しむ上で事前に知っておきたい3つのポイント-主演ホアキン・フェニックス」にお進みください。
映画『Joker』の感想・レビュー
私刑。
差別。
階級。
貧困。
弱者。
これらをアーサー(ホアキン・フェニックス)の視点で伝えてくる。
現在のアメリカの社会風刺。
ゴッサムシティのダウンタウン(下町)は限りなくひどい町と化している。
本人の感情や気持ちの赴くまま罰や死刑を与える。
同じ事象も見てる人の立ち位置が違うことで見え方が違う。
バットマンもジョーカーも表裏一体なんだなと感じた。
ブルース・ウェインとアーサーの物差し。
この場合タイトルは『Joker』なわけだから言い換えよう。
アーサーとブルース・ウェインの物差しということ。
骨と皮だけに見えるほどと限界まで肉体を削った、ホアキン・フェニックの演技がかっこ良すぎる。
スクリーンから映し出されるその姿はアーサーであり、ジョーカーそのものだった。
ホアキン・フェニックスが映画『ザ・マスター』でもみせた、狂気の姿がより真に迫り、神の域に達している。
同じ衣装を着ていてもその上からオーラを纏い直すことで、別人に感じることが何度もある。
今映っている男は明らかにひ弱なアーサーなはずなのに、覚醒した瞬間のアーサーは威風堂々としていることがスクリーンから伝わってくるのだ。
このような演技ができる俳優がホアキン・フェニックスだ。
笑い出すと止められない精神疾患に悩むアーサー。
貧しくて母親と2人きりで生活するアーサー。
ピエロの仕事も満足にできず、全てが悪い方向へ。
彼が望まなくても明らかに周囲が、社会がこの親子をどん底へと突き落としていく。
救いの手などどこにもない。
この映画は一言では語れない。
腐敗しきり社会全体が負の連鎖で包まれたゴッサムシティ。
後にバットマンが誕生し、社会の悪とバットマンが戦う世界。
金持ちが大きな顔をして暮らし、貧しい人たちを守るはずの公共のシステムは機能不全を起こし改善の見込みはない。
市政は麻痺状態で福祉サービスも停止し、弱者はますます手立てを失っていく。
市政は行政サービスの回復や、弱者救済よりも市長選を優先している。
ゴッサムシティの大企業ウェイン産業の創業者トーマス・ウェインはゴッサムシティを立て直すために市長選に出ると息巻く。
そんなある日ウェイン産業のエリート男性3人がアーサーに因縁をつけて襲う。
金持ちは立場が強く、そして、貧乏人はただ蹴られる立場を表した瞬間だった。
この事件はトーマス・ウェインも含めて、富裕層は貧困層のことを意識していないということを象徴している。
目の前に人間として存在していても富裕層は貧困層を目の前の景色としか認識していない、人権すらないものと見ている瞬間だった。
アーサーはウェイン産業の男たちに襲われて、大きな悲劇が起きるが、それがジョーカー誕生のきっかけへとなる。
このきっかけによりアーサーの中でタガが外れ、彼を取り巻く負の螺旋(スパイラル)が止まらなくなる。
まとめ『Joker(ジョーカー)誕生』
アーサーがジョーカーへ変貌する物語であった。
DCコミックでジョーカーといえば悪のカリスマであり、後にバットマンを苦しめる存在になる。
原作ではジョーカーはバットマンの仲間のロビンを殺害し、バットガールを半身不随する。
他人の不幸が至高の喜びであるジョーカーは怖さを通り越して、不気味すぎる。
ホアキン・フェニックスが演じた映画『Joker』はその悪のカリスマが誕生するまでの物語である。
だからこのときブルース・ウェインはまだ子どもで、バットマンは存在しない。
アーサーがジョーカーを名乗るに至るまで、彼は悪のカリスマでもなんでもなかった。
貧困にあえぐ底辺の市民であり、犯罪を犯すよりも、犯罪者にもて遊ばれるような弱者の象徴のような男。
映画を見てくれれば分かるが、彼は生きる目標、生きる目的を見失っているということがよく分かる。
そんな彼を、そして、彼の家族である母をこれでもかと不幸の連鎖が襲うことになる。
「自分の身に起きることは良いことも、悪いことも全て自分の責任だ」という正論を耳にしたことはないだろうか。
貧乏なのも自分の責任、いじめられるのもいじめられる側の責任、、、果たしてそうだろうか?
もちろん、自分の責任の範囲もあるかもしれないが、100%必ずしも自分の責任ではないことが多いのではないだろうか?
場合によっては100%相手の責任であったり、社会の責任であったりすることもあるはずだ。
例えば、『バットマン』ことブルース・ウェインは幼くして両親を失い、犯罪と犯罪者を憎むようになった。
両親が死んだことは彼らの責任ではないはずだ。
責任があるとすれば犯罪を容認し、腐敗していたゴッサムシティの闇であるはずだ。
両親を失ったブルース・ウェインはその後、血を吐くような、死に物狂いの努力によって類い稀な身体能力と、父親が残した財産を利用して『バットマン』としてゴッサムシティに戻ってくる(映画「バットマン ビギンズ(2005年)。
彼は自分の『物差し』で犯罪者を襲っている。
これは明らかに『私刑』であり、犯罪なのだ。
犯罪者を匿名で襲っていいということがまかり通る世界は狂っている。
そう『バットマン』の世界観は根本から狂っているのだ。
ドイツの劇作家・詩人、ベルトルト・ブレヒト(1898~1956)の言葉で『英雄のいない時代は不幸だが、英雄を必要とする時代はもっと不幸だ。』という言葉がある。
ゴッサムシティはその『英雄を必要とする不幸な時代』を表現しているのだ。
その中で英雄(ヒーロー)は光り輝く。
『バットマン』は法律が裁けない犯罪、例えば、汚職警官や、腐敗した議員が絡んだ犯罪などを1つ1つ潰していく。
私刑ヒーロー。
『Joker』は腐敗した社会が生み出した、社会で生きる憤り感じる市民のヒーローなのだ。
バットマンとJokerがやっていることは価値基準が違うだけで、行っていることは同じだと私は思っている。
自分がやりたいことをやりたいように気がすむようにしている。
自分にとっての正義をまっとうしようとしている。
サイコパスに聞こえるかもしれないが、バットマンもJokerも十分サイコパスだ。
今回の映画『Joker』を見ればみるほど、正義と悪は紙一重だということがわかる。
それを正義か悪か決めるのは社会であり、受け手側の尺度なのだ。
執行する側にとってその行いは『絶対の正義』であることに変わりはない。
社会の歪んだシステムがJokerを生み出し、社会がJokerを待ち望んだ。
そして、Jokerを始め、多くのヴィランが発生し、悪が後にバットマンを生み出す。
どちらも正義であり、どちらも悪なのだ。
この映画を最後まで観たとき、感動と同時にホッとした気持ちで涙が出てきた。
生きる目的を失っていたアーサーがJokerとして社会に認められた瞬間をみることができたからだ。
アーサーことJokerは彼らの英雄(ヒーロー)になったのだ。
犯罪も汚職も許されることでは決してない。
犯罪はいけないことだ。
しかし、社会システムがすべての市民にとって理想の形で機能しているわけでもない。
あなたの生きる目的、あなたを支える愛や信念、すべて目の前から取り上げられたとき、あなただったらどうしますか。
それでも笑顔でいることができますか?
映画『Joker』でJokerを演じたホアキン・フェニックスは生きる目的、愛情、信念を取り上げられた後、Jokerという英雄になるまでを見事に演じました。
彼のカリスマ性がスクリーンから溢れ出していました。
映画『Joker』は映画館で是非、観ていただきたい作品です。
以上、「映画『Joker』感想・レビュー(英雄は正義でもあり、悪でもある。その二面性について)」でした。
最後までお読みいただきありがとうございました。
アーサー/Joker(ホアキン・フェニックス)
- Joaquin Phoenix(ホアキン・フェニックス)
- 生年月日 1974年10月28日
- 出生地 アメリカ合衆国プエルトリコ自治連邦区サンフアン市
- 国籍 アメリカ合衆国
- 主な映画出演作品
- Joker(2019)/ 主演 アーサー・フレック・ジョーカー 役
- THE SHISTERS BROTHERS(ゴールデン・リバー・2018)/ ジョン・C・ライリーとダブル主演 チャーリー 役
- You Were Never Really Here(ビューティフル・デイ・2017)/ 主演 ジョー 役 / カンヌ国際映画祭男優賞受賞
- Inherent Vice(インヒアレント・ヴァイス・2014)/ 主演 ラリー・スポーテッロ 役
- Her(her/世界でひとつの彼女・2013)/ 主演 セオドア・トゥオンブリー 役
- The Master(2012)/主演 フレディ・クィエル 役
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