人気漫画家かわぐちかいじ原作「空母いぶき」の映画が西島秀俊、佐々木蔵之介の共演で、5月24日(金)から全国公開されました。
日本は次の理由から海上自衛隊は正式な空母(航空母艦)を採用していません。
「他国への航空兵力の展開が可能になる空母を保有することは、日本国憲法の専守防衛と戦力の不保持の原則に背く」という政府の憲法解釈です。
空母採用問題については様々な意見がありますが、映画「空母いぶき」は架空ではありますが、海上自衛隊が空母を正式採用したという仮定の物語です。
映画「空母いぶき」はエンターテインメントとして非常に面白くできていました。
また、自衛隊のあり方や、安全保障上の厳格なルールなどをリアルに描いた作品となっており、日本に住む国民として「防衛」というものを考え直すいいきっかけになる作品でした。
かわがちかいじ代表作「沈黙の艦隊(雑誌モーニングで1988年から1996年まで連載。累計発行部数2500万部)」「ジパング(雑誌モーニングで2000年から2009年まで連載。累計発行部数1500万部)」
なお、「空母いぶき」は雑誌ビッグコミックで2014年24号から連載中です。
監督は「沈まぬ太陽(主演:渡辺謙)」でも監督を務めた若松節朗。
企画には「戦国自衛隊」「亡国のイージス」「終戦のローレライ」の原作者である福井晴敏。
脚本には、「ガメラ 大怪獣空中決戦」「機動警察パトレイバー2 the Movie」「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」などで脚本家として高い評価を受けている伊藤和典が担当しています。
映画「空母いぶき」予告編
配給元キノフィルムズの公式YouTubeチャンネルより
『空母いぶき』第二弾予告映像【30秒】(5月24日 全国ロードショー)
映画「空母いぶき」ストーリー
引用元:映画『空母いぶき』公式サイト
20XX年、12月23日未明。未曾有の事態が日本を襲う。
沖ノ鳥島の西方450キロ、波留間群島初島に国籍不明の武装集団が上陸、わが国の領土が占領されたのだ。海上自衛隊は直ちに小笠原諸島沖で訓練航海中の第5護衛隊群に出動を命じた。
その旗艦こそ、自衛隊初の航空機搭載型護衛艦《いぶき》だった。
計画段階から「専守防衛」論議の的となり国論を二分してきた《いぶき》。艦長は、航空自衛隊出身の秋津竜太一佐。
そしてそれを補佐するのは海上自衛隊生え抜きの副長・新波歳也二佐。現場海域へと向かう彼らを待ち受けていたのは、敵潜水艦からの突然のミサイル攻撃だった。
さらに針路上には敵の空母艦隊までもが姿を現す。想定を越えた戦闘状態に突入していく第5護衛隊群。
政府はついに「防衛出動」を発令する。
迫り来る敵戦闘機に向け、ついに迎撃ミサイルは放たれた……。
映画「空母いぶき」キャスト&スタッフ
キャスト | 一部抜粋
【自衛隊】 【政府関係者】 【記者】 【一般市民】 |
---|---|
監督 | 若松節朗 |
脚本 | 伊藤和典 長谷川康夫 |
原作 | かわぐちかいじ |
企画 | 福井晴敏 小滝祥平 |
監修 | かわぐちかいじ 恵谷 治(軍事ジャーナリスト:1949年 – 2018年5月20日) |
配給 | キノフィルムズ |
上映時間 | 134分 |
著作権 | ©︎2019 かわがちかいじ・恵谷 治・小学館/「空母いぶき」フィルムパートナーズ |
映画「空母いぶき」感想・レビュー
エンターテインメント作品です
公開前から本作を見ていない外野が騒いでいたり、佐藤浩市さんの報道でいろいろとあった「空母いぶき」ですが、公開初日に観て、最初に思ったのは面白かったという感想です。
冒頭でも書きましたが、エンターテインメントとして分かりやすくて、面白く作られていた作品でした。
専守防衛が基本である自衛隊であっても、例え、攻撃を受けていても自由に攻撃行動に転じることができない部隊行動基準があるのだと初めて知りました。
攻撃を受けたからといって簡単に攻撃できないということは、考えて見れば当たり前のことでした。
いかに普段、防衛や自衛隊について何も自分が考えていなかったかということに気づかされました。
攻撃を受けたからと軽はずみに反撃し、大きなダメージを敵国に与えれば(大量の死者を敵国に出せば)次は戦争になってしまいます。
「戦争」「専守防衛」「防衛」「平和」というこれらの言葉の意味の重さをエンターテインメントを通じで考えさせてくれるいい作品だったと思います。
空母いぶきの艦長と副長役である、西島秀俊と佐々木蔵之介の共演もうまくハマっていて観ていてかっこよかったです。
艦長である西島秀俊は好戦的であり、副長の佐々木蔵之介さんは穏便派ですが、激しくぶつかり合う2人の男たちがいずれもカッコいい。
男の僕が観ててもかっこいいし、惚れ惚れしますが、一緒に観ていた家内の目にも素敵に映っていたと思います。
主役以外の見どころ
映画の中心となる舞台は「空母いぶき」ですが、この映画を盛り上げるためにいくつかのステージが用意されています。
まず「空母いぶき」を守る『護衛艦』たち、海上自衛隊の意思決定機関である『政府』、自衛隊が守る『国民』、そして、おきている事実を広める『メディア』です。
それぞれにそれぞれの思惑があり、最後まで目が離せません。
特に政府のトップである総理大臣、垂水総理(佐藤浩市)は一見優柔不断そうに見えますが、それだけではありませんでした。
また、「空母いぶき」を守る護衛艦の艦長たちも、玉木宏、高嶋政宏などそうそうたる面々が出演。
各艦長たちにも重要な作戦行動があり、見せ場もしっかり用意されており、海の男のかっこよさを存分に発揮していました。
監修はしっかりしていて見応えあり! 映画の脚本として完成度の高い作品!
映画は自衛隊の協力を得られた撮影はなかったようですが、作品としては原作者のかわぐちかいじさんはもちろん、軍事ジャーナリスト恵谷 治(1949年 – 2018年5月20日)さんの監修も入っており、真に迫っている作品だと思います。
いぶきや、護衛艦の映像などもCGやセットで合成したものでしょうが、日本映画にしてはしっかり作り込まれていた作品だと思います(私は特撮映画が苦手な人間ですが、特撮くささはあまり感じませんでした。ハリウッドと比較したら、それはかなり辛いですけど)。
また、「原作通りでない」という声がときどき聞こえてきますが、映画と原作は作っている人間が違うので違う内容になることはごく当たり前のことです。
その辺りはあまりに気にしていると映画を楽しめないので、無粋というものだと私は思います。
原作ファンの方は、原作との違いを見つけたときには、それを「粗探し」として見るのではなく、違いに気づいたことに「喜び」を感じるような見方をするとより楽しめると思います。
欧米映画と比較しても、映画の脚本として完成度の高い作品だったと思います。
「空母いぶき」を楽しむために知っておいて欲しいこと
日本政府は空母を持ちたがっている
冒頭でも説明しましたが、航空母艦は他国へ容易に攻撃ができる性質上「戦力」と考えられるため、日本政府は空母を持っていません。
空母は固定翼機(戦闘機)を多数搭載でき、かつ、離着陸できる船をいいます。
海上作戦においては航空戦力は依然として重要であり、海洋のどこへでも進出できる機動力の高さもあり現在でも世界的に海軍の中心的存在である。
日本では空母はありませんが、現在いくつかの護衛艦を改造して、ヘリコプターを発着できるようにしています。
いずも護衛艦を改造して、F35B(固定翼機)を発着できるようにしようという動きも見られていますが、これが実現すれば空母として機能することになります。しかし、日本政府は空母と呼ばないと言っているそうです。
映画「空母いぶき」では海上自衛隊が空母を採用した、という仮定の物語でした。
空母採用については様々な反対の意見が現日本政権にも届いているようですが、あなたはどのように考えますか?
海上自衛隊には空母は必要でしょうか?不必要でしょうか?
日本の「防衛」のあり方について、問いかける映画だったのではないでしょうか?
「交戦権」を放棄する日本における「生存権」「自衛権」
日本は戦後、憲法の第9条で交戦権を放棄している。
簡単に言えば「戦争を放棄し、戦力を持たない」ということです。
憲法第9条より引用:
日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2.前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
しかし、国際法上、自国を守るための「生存権」や「自衛権」を放棄しているわけではない。
第9条だけに着目すれば自衛隊も今回の映画も矛盾だらけではあるが、国際法と照らし合わせて日本にも「生存権」や「自衛権」というモノが当然あるため自衛隊は決して矛盾はしていない。
自国を敵から守るために用意されている自衛隊。
自衛隊は部隊行動基準「ROE(Rules of Egagement)」に基づいて行動しているため戦闘行為を自由にできない、ということがこの映画でわかります。
意思決定機関は内閣にあるため、総理大臣が防衛出動を出さない限りは「武力行使」することは絶対に認められません。
むやみに攻撃し、戦争に発展されれば日本の領土に攻め入られて、日本国民の安全と財産が脅かされることになるからです。
日本国民であれば当然知っていますが、日本は他国への戦争行為は認められていない。
第二次世界大戦後の自衛隊は専守防衛が基本的な軍事戦略となっています。
専守防衛では防衛上の必要性があっても相手国への先制攻撃は行わない、攻撃を受けてから反撃を行う場合は自国の領域(領海・領空)で戦闘を終わらせるというものです。
「海上警備行動」と「防衛出動」
専守防衛を基本とした海上自衛隊が日本を守る上でどう守っているのか?
基本的な行動原理として、「海上警備行動」と「防衛出動」の2つがあります。
海上警備行動(警察権)
領海内の治安を守り、国民を守るための行動を海上警備行動と言います。
この権利はあくまで警察権の範囲に止めるものであり、「武器の使用」も認められますが、あくまで相手の行動を抑制するのが目的です。
正当防衛と緊急避難の場合に限ると考えてください。
防衛出動(自衛権)
事態が緊迫して、他国からの武力攻撃を受けたり、明白な危険が迫っているときに「武力攻撃事態」と認定した場合に、総理大臣が自衛隊に対して発令できるのが防衛出動です。
「防衛出動」においては「武力の行使」が認められますが、「相手国兵力に対して破壊や殺傷が目的」となるため「海上警備行動」と比べるとレベルが非常に高いことがわかります。
終戦後の現政権下では過去に防衛出動が発令されたことはありません。
ただし、「防衛出動」がたとえ認められたとしても、部隊行動基準「ROE(Rules of Egagement)」があるため自衛隊は自由に戦闘行為が行えるわけではありません。
文民である総理大臣の命令には絶対的に従う必要があります。
「海上警備行動」「防衛出動」については、映画「空母いぶき」のパンフレットに詳しく載っています。
戦後、極東委員会が日本憲法に導入させた文民統制(シビリアコントロール)
文民たる政治家が自衛隊を統制するという考え方。
対戦中の日本の政治は「軍人コントロール」だったため、戦後、極東委員会(米ソ中など)が日本の憲法に導入させた仕組みです。
憲法第66条において次のように掲げられている。
憲法第66条:引用
内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。
内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。
自衛隊の組織図を簡単に説明すると、一番トップは内閣ですが、内閣のトップは「総理大臣」です。
そして、その下に防衛大臣と防衛副大臣がいます。
何れにしてもシビリアコントロールにより、総理大臣、防衛大臣たちも全てが文民であり、軍人ではありません。
軍人のみのコントロールによる軍部の暴走、そして、軍国主義への暴走をくい止めるために考えられた仕組みがシビリアコントロールです。
下図、引用元: 防衛省・自衛隊:我が国の防衛組織より
映画「空母いぶき」では佐藤浩市が演じる、垂水総理大臣を始め政府関連のシーンが出てきていますが、非常に重要な役どころだったと思います。
シン・ゴジラなど他の映画と比較すると政府対応シーンは大人しめだったかもしれませんが、この映画のメインは空母いぶきなのでそこはあまり触れない方が楽しめるかもしれませんね。
まとめ
映画「空母いぶき」を観た人は今一度、今の日本の防衛や平和について考えてみてはどうでしょうか。
この日本の専守防衛を貫く場合の課題をいろいろと示してくれました。
『戦争』とはどいういう状態であるのか?
戦えば『戦争』なのか?
『平和』とはなんなのか?
『ミサイルを放ち、敵を殺す』とはどういう状態を作り出すのか?
示された様々なモノのことについて、正しいことはないのかもしれませんが、考えてみてはどうでしょうか?
エンターテインメント映画として楽しんで欲しいので、考えすぎはほどほどに。
それでも関心持つことは大切だと思いました。
以上、『映画「空母いぶき」西島秀俊、佐々木蔵之介共演!男前2人が激突!』でした。
最後までお読みいただきありがとうございました。
映画ライター宮川(@miyakawa2449)でした。
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